恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

社長の肩書きのせいだけでなく、一樹の存在は圧倒的に目立つ。豪快でパワフルなうえ、周りの人間を引き寄せる力があり、気づけばみんなが巻き込まれていく。
もはや台風の目。梓の今も似たような状況と言えるだろう。

ふたり揃ってしばらく息をひそめていると、すぐそばを友里恵が走って通り過ぎていく。梓たちにまったく気づかない様子だった。


「ふぅ、もう大丈夫だな」


一樹は大きく息を吐き出し、そこで初めて梓を見た。


「さっきは悪かった。どこも怪我してないか?」
「怪我はしていません」
「キミはえーっと……」


一樹は梓の名前がすんなりと出てこないようだ。

デザイナー兼社長のためデザイン企画部と密接なかかわりをもっている一樹だが、背が高いだけで地味で目立たない梓は、その視界には入らないのだろう。
そのうえクレアストの社員は五百人を超す。一樹がいちいち覚えていなくて当然だ。


「デザイン企画部の佐久間梓と申します」

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