恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

名乗った後に丁寧に頭を下げると、一樹の胸のあたりに額をぶつけた。頭突きするような格好になり、慌てて「すみません」と謝る。

一樹は「デザイン企画部だったか」と言いながらクスッと笑った。
やはり梓を認識していなかったようだ。

そこで大事なことを思い出した。


「もう間もなく社長挨拶のお時間ではないですか?」


梓が腕時計を確認してみれば、それは十分後に迫っている。姿が見えなくて、司会者もそろそろ焦り始める頃だろう。


「そんな場合じゃない。一大事なんだよ」
「一大事、ですか?」


たしかに社長ともあろう一樹が、秘書の友里恵から追いかけ回されるような事態はただごとではないかもしれないが。


「三島が今夜これから、俺の見合いパーティーを開くとかなんとか言い出しているんだよ」


苦々しく言ったかと思えば、一樹は大きなため息を漏らした。

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