恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

「恋人といっても、あれだ。その場しのぎと言ったらいいのか? 三島を諦めさせるために恋人のふりを頼みたい。いや、いっそのこと婚約者の方がいいな」
「……恋人のふり? 婚約者?」


一樹の言葉を反復する。

(いやいやいや、それはいくらなんでも……!)

恐れ多さから、梓は大きくかぶりを振ってわなないた。
勤め先の社長の恋人のふりや、婚約者のふりだなんてとんでもない。

ところが一樹はそれで諦めるような男ではない。


「少しの間でいいから」


なおも梓に詰め寄る。
後ろは壁。それ以上、後退できず、梓は冷えた壁に背中をめいっぱい押しつけた。

強い視線が梓を射抜く。普段穏やかな表情をしていることの多い一樹の、珍しく深刻そうな顔だ。

一樹は梓の勤め先の社長。ボス。すなわち可能な限り、その要望や希望、期待に応えるのが部下の務めである。
元来まじめな梓は、一樹の熱心な頼みを聞かずしてクレアストの社員とは言えないのでは?と自問自答をし始めた。

< 18 / 301 >

この作品をシェア

pagetop