恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
だからなのか、別れる場面になっても、悲しい感情はほとんどなかった。一緒に食事する相手が減る。それだけのことだった。
梓も、そんな延長で考えていた相手だった。さすがに偽りの婚約者という役回りを演じてもらうのは初めてだったが。
社長という肩書きのせいか、近寄ってくる女性はたいていが華やか好き。一樹を自分を良く見せるためのアクセサリーかなにかと考える女性もいただろう。
フレンドリーと言えば聞こえはいいが、すぐに親しげな態度をとられるのが普通だった。
ところが梓は、一樹の知っている女性たちとは違っていた。
真面目で律儀。華やかさから距離を置き、硬い態度を変えようともしない。
何度指摘しても、話し口調は馬鹿がつくほどに丁寧。プレゼントを喜ぶどころか、逆に迷惑にすら感じている様子だった。
そんな梓がときおり見せる無自覚で無垢なかわいらしさは、恋愛経験のなさからくるものなのだろう。
それを見せつけられるたびに、また、ペナルティを理由にキスするたびに、一樹の中で梓に対する想いが育っていった。
「交際が順調でなによりですが、ご結婚はいつ頃なさる予定ですか? 仕事のスケジュールもございますので、ある程度余裕をもっていただけると私といたしましても助かります」
「わかってる。その辺はまたあとで」