恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
◇◇◇
気づいたとき、梓はキャビンにいた。それもスイートルームと思われる広い部屋。豪華な調度品が並び、ここが船内だと忘れそうになる。
入口に突っ立つ梓に背を向け、一樹はスマートフォンで電話中だ。
「ああ、悪いな。そんな感じで招待客にも説明してくれると助かる。……ああ、それじゃ」
通話を切り、一樹が振り返ったところで、梓は大変なことを思い出した。
「社長、挨拶の時間が……!」
予定時刻まであと五分。猛ダッシュしなければ間に合わないだろう。
ところが焦る梓とは対照的に、一樹は余裕綽々。ソファに腰を下ろし、ゆったりと足を組み替えた。
「心配いらない。今、専務に電話で頼んだよ」
「専務にですか?」
専務の成瀬(なるせ)は、一樹よりひとつ年下の三十一歳。どちらかといえば豪快でおおらかな一樹とは反対に、まじめで堅実派である。
一樹同様、イケメンだと人気のある男だ。