恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

「体調が悪いから頼むってね」
「社長、どこか具合が悪いのですか?」


そうだとしたら、すぐにでも医者の手配をしなければならないと梓が大まじめに聞き返すと、一樹は一笑した。


「違うって。サボる口実」


創立記念という大事な場で、まさか社長挨拶をサボるとは。
梓は目が点になったが、一樹の奔放ぶりは社内でもよく話題になっているため、納得できる部分もあった。


「さっき三島に『具合が悪いから挨拶は辞退する』って俺が言ってたのを聞いてなかったのか?」
「あっ、そうだったんですね……」


不意打ちのキスをされ、梓はそれどころではなかった。ふたりのやり取りも、ほとんど耳に入っていない。


「挨拶は専務の成瀬の方が得意なんだ。適材適所っていうだろう?」


言われてみれば、成瀬は落ち着いた口調で真摯に話すタイプだし、そういった側面で見れば適任なのだろう。

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