恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

でも、一樹のように強弱と抑揚をつけて鼓舞するかのごとくするスピーチもまた、熱がこもっていていいのでは?とも、梓は思った。


「本当によろしいのですか?」
「いいって。梓が気にする必要はない」


名前で呼び捨てにされ、梓の鼓動がドクンと跳ねる。
さっきは友里恵の手前、そう呼んだのだろうけど、今ここに彼女はいない。


「あの〝梓〟って……」
「え? 名前がどうかした?」
「その、呼び捨てというのはちょっと……」


顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。
なにしろ男性から呼び捨てにされる経験は、父親以外に一度もない。その父親も、梓が幼い頃に亡くなっている。

背の高さがコンプレックスの梓は今まで恋愛経験がなく、名前を呼び捨てにされる機会はなかったのだ。

男の人ならば、小さくてかわいらしい女性の方がいいだろう。そう思うと、好きな人ができても想いは胸に秘めたまま。そうして二十七年間生きてきた。

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