恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
体調が悪くなったからひと足先に帰るという嘘に、抵抗がなかったわけではない。絵梨を心配させるのはわかっていたし、なによりも仕事を途中で放り出すのはとても心苦しかった。
おかげで言葉はつかえながらになり、余計に体調が悪いと絵梨に思わせて申し訳ない。
さすがに本当の理由はスキャンダラスなため、慕ってくれている絵梨にも言えないけれど。
パーティーの翌日には絵梨からスマートフォンのアプリにメッセージが届いたが、梓は【心配しなくて大丈夫】と返しただけだった。
「梓さんが元気ならよかったです。でも、おいしいものを食べにいく約束はそのままになっていますから、近々行きましょうね」
「あっ、そうだったわよね。本当にごめんね」
誘ったのは自分だというのに約束を破るなんて。
梓が何度も謝ると、絵梨は「梓さんがごちそうしてくれるなら許しちゃいますよっ」とおどけた。
「そういえば、社長も急に具合が悪いとかって言って、パーティーの社長挨拶は専務がされていましたけど大丈夫ですかね」
「えっ……あ、そ、そうなの?」
一樹の話題、しかもパーティー当夜の話を持ち出され、嫌でも動揺する。心拍が乱れ、祖母の多香子と同じく不整脈を心配してしまう。