恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
社長の一樹からメールを直々にもらった経験は、これまでに一度もない。
(もしかしたら、婚約者のふりはもうしなくていいとか? それとも、意外と仕事の内容だったりする?)
いったいどんな用件なのかと、マウスポインタを合わせるほんの数秒のうちにあれこれと考える。
マウスでカチッと音を立てながらメールを開くと、そこには【仕事が終わったら、下のエントランスで待っていてくれ】という短いメッセージが書かれていた。
(下で待てって、いったいなにがあるんだろう)
短い一文では一樹の意図がわからず、梓は首を傾げる。
さらにそのメッセージの下に一樹のものと思われるナンバーが記載されているのを見て、連絡先を交換し損ねていたことを思い出した。
社長からのメールをもらいっぱなしにしておくわけにはいかない。梓は、キーボードをカタカタと鳴らして返信を打ち始めた。
【お疲れ様です。承知いたしました。ところで、いったいどのようなご用件でしょうか?】
そして、ラストに念のため自分のスマートフォンのナンバーを書き記す。送信ボタンを押して退勤時間まで待ってみたが、一樹からの返信は届かなかった。
(社長だもの。忙しいよね。とりあえず下で待ってみよう)