恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

名前を呼ばれ、やはりそうだったかと梓は小走りになった。
誰かに見られたら大変だと、後ろを振り返りながら助手席に乗り込む。ドアを閉めた途端、一樹はなぜか噴き出すように笑った。


「なんて動きをしてるんだよ」
「はい……?」
「コソ泥に見えたぞ」


そう言って、一樹が再び笑う。


「そうでしたか?」


まさかコソ泥と言われるとは。
梓は目をぱちくりとさせた。

(忍者のような身のこなしになっていると思っていたんだけどな)

どうやらそう思ったのは自分だけのようだ。同じ泥棒なら〝○○○三世〟の方がよかった。
そうとはいえ、誰にも見られずに一樹の車に乗れたようだから、よしとしていいだろう。


「あの、それでなにかあったのでしょうか?」


わざわざメールで呼び出すくらいなのだ。重大発表でもあるのではないか。

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