恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
梓はそこで、パーティーで友里恵に見せつけるようにして一樹にされたキスを思い出した。
一樹にとってのキスは、食事をするのと同じような感覚なのかもしれない。
でも、梓にしてみたらそうではない。キスはキス。大事件なのだ。
かといって、一樹に協力すると一度了承した以上、ここで大役を下りるのはできない。
梓は、自分の頑固な性格が恨めしかった。
十分ほど走らせた後、一樹は高級ホテル『ル・シェルブル』の地下駐車場に車を停めた。しばらくして別の車が離れたところに停められる。それが友里恵の運転するものらしい。
一樹に「そっちは見ないように」と言われ、不自然に顔を背けながら車を降り立つと、すかさず肩を引き寄せられた。そしてそのまま歩きだす。
密着した左半身と抱かれた肩に、嫌でも神経が集中する。友里恵に観察されていることよりも、そうして歩いている方が梓には一大事だ。
「どど、どこへ行くんですか?」
気を紛らわせようと口を開いたら、緊張で言葉がつかえた。
「そんなにビビるなよ。俺が誘拐犯みたいじゃないか」