恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
一樹がハハッと笑う。
(笑いごとではないのですが!)
梓は微笑む余裕すらない。
「よく使う店に行こうかと思ってね」
横顔を見上げたら、一樹からウインクが飛んできた。
それを間近でまともに受け、梓の心臓はあり得ない大きさで音が鳴る。心臓の上下左右、もしくは裏表がひっくり返ったのでは?と思うほどの衝撃だ。
(顔がいいんだから、無自覚にそんな仕草はしないでください……!)
男慣れしていない梓にとって一樹クラスのハイスペック男性との疑似恋愛は、素人が何の装備もなしにエベレスト登頂を目指すようなもの。無謀もいいところだ。
エレベーターに乗り込むと、一樹はパネルの最上階をタッチした。
(三島さんは、この後どうするつもりなんだろう。駐車場で張り込んでいるつもりなのかな)
梓がそんなことを考えているうちに、エレベーターはチンと軽やかな音を立てて止まる。
一樹にエスコートされて梓が連れてこられたのは、ラウンジらしきところだった。
シックな内装とピアノの生演奏が耳に心地いい。