恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

もはや梓は言葉にもならなかった。


「かわいいな、梓は」
「ですからからかわないでくださいってさっきから――」


握りしめた拳に一樹がそっと手を重ねる。いきなりそうされて、梓は言葉を止めざるを得なかった。
一樹の目が真剣だったせいだ。おかげで梓の顔はさらに熱くなる。


「からかってないよ。俺は嘘が嫌いだから」
「わた、わた、私がかわいいなんて、か、一樹さんは一度視力測定をされた方がいいと思います」


唇を震わせながら、なんとか名前で呼ぶのは成功した。

(社長ってば、本当にどうかしちゃったんじゃないのかな。私がかわいいなんて、お世辞にもほどがあるわ)

気持ちを落ち着けるためにカクテルに口をつける。ひと思いに飲み干すと、喉と胸がカーッと熱かった。


「視力はいい方だ。お代わりもらおうか」


一樹がにこにこしながらバーテンに声をかけて注文を済ませる。

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