恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
「こんにちは」
俯きつつ挨拶をすると、一樹は微笑みながら梓の腰にそっと手を添え、助手席のドアを開けた。
一樹の車に乗るのは三度目だが、やけに緊張するのはどうしてなのか。
「なんの映画を観るか決めた?」
「あっ……」
走りだしてすぐに一樹に聞かれ、梓はドキリとして口に手をあてる。洋服にばかり気をとられ、なにを観るか決めるのをすっかり忘れていた。
「その反応だと決めてないな」
一樹がクスッと鼻を鳴らす。
「すみません。別のことに気をとられて……」
「別のこと?」
「はい、なにを着たらいいかなって悩んでしまって」
そうしているうちに昼ご飯も食べ損ねた。空腹でおなかの虫が騒ぎださないよう祈るばかりだ。
「ずいぶんとかわいいことを言うなぁ。俺を煽ろうとして言ってる?」
「え、いえっ、そんなつもりは全然」