恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

煽るとはいったいなんだろうか。かわいいことを言った自覚は梓にない。
それどころか、優柔不断で決断力のなさをひけらかしたような気がする。


「俺とのデートになにを着ようか悩むなんて、うれしいことを言ってくれるじゃないか」
「あっ、えっとそうじゃなくてですね、あまり洋服をもっていないうえに、デートもろくにしたことがないというか」


情けない話を暴露したなと思ったが、ここで男慣れしていると嘘をつくよりはいい。

(それに、呆れられるのは想定済みだしね)

今さらカッコつけたって仕方がない。


「それじゃ、この前の夜のデートが初めて?」
「お恥ずかしながら……」


デート慣れしていないと知っておいてもらえば、なにか粗相があっても大目に見てくれるだろう。


「これまでに恋人は?」
「それも実は……」
「いない?」


首をカクンと前に倒すことで〝はい〟と答えた。
男のひとりも知らずに今まで生きてきたのかと、一樹は蔑んだだろうか。

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