恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
「どこへ行くんですか?」
「どこって、靴屋に決まってるだろ」
「ですが」
「ですがもへったくれもない。それじゃ歩きにくくてしょうがないだろ。やせ我慢するな」
そうまで言われれば、梓はなにも反論ができない。
「たしか、この近辺にあったはずだ」
車に乗るのかと思いきや、一樹は一階でエレベーターを降りてビルから外へ出た。
手を引かれてズンズン歩く。踵は馬の蹄のようにパカパカしていたが、なんとか早足の一樹についていく。
「あぁ、ここだ」
ふと立ち止まった一樹が、いきなり左へ方向転換して店のドアを開けた。
(えっ、ここって……)
ガラス扉を抜けた先に、光で満ちた店内が現れる。黒い壁がシックで、並んだ靴たちがよりいっそう高級そうに見える。
どの靴も〝私を見て〟とばかりにアピールしているようだった。
梓には縁もゆかりもない、高級ブランド『ブライトムーン』の店だ。