恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
「一樹さん、私、こんな高い靴は……」
「いいからいいから」
「ですが、払えないです」
外出する前に確かめた財布の中身を思い返す。
なにかあったらと思い、いつもより多めにお金を入れてはあるが、高級ブランドのパンプスを買うにはほど遠い。
「そんな心配はしなくていい」
一樹は戸惑う梓を素知らぬ顔。陳列されている商品を手に取って物色し始めた。
(やだ、どうしよう……)
一樹が言い出したら止まらない性質なのは、偽りの婚約者を演じるようになったときから梓も知っている。
かといって、ここでパンプスを買ってもらうのはどうなのだろう。それも高級品だ。
梓のような一般庶民が店内にいるのも、ましてや試着するのも憚られるようなブランド。梓は肩身が狭くて、一樹のそばで小さくなっているしかなかった。
「これなんかどうだ?」
一樹が手に取ると、すかさずスタッフが「そちらは今年の春の新作です」と近づいてきた。ブラックスーツに身を包み、髪をきっちりとまとめた美女だ。