堅物社長にグイグイ迫られてます



「ここか」

築四十年以上経つアパートは、御子柴さんの住むデザイナーズマンションとは違ってどこか古っぽい外観だ。

「なかなかレトロだな」

ニ階建ての木造アパートを見上げながら御子柴さんが呟く。

レトロというお洒落な言葉を選んではいるけれど、要は築年数の経っているおんぼろアパートということだ。

ここまでは御子柴さんの運転する車できた。ホワイト色のおそらく高級車は近くのコインパーキングへ駐車している。

「何階の部屋だ」

御子柴さんが振り返りたずねてくる。

「二階の二〇二号室です」

そう答えながらも、私は部屋へ行くのをずっとためらっている。荷物を取りに帰りたいけれど、でももしも俊君が部屋の中にいたらどうしよう。もしも今も浮気相手の女性と一緒だったら……。気まずい。気まず過ぎる。

そんな私の気持ちなんてお構いなしの御子柴さんは部屋の場所を聞くなりさっそく階段をのぼり始めてしまった。

「早くしろ。行くぞ」

「は、はい」

私も御子柴さんの後を追って階段をのぼる。通い慣れた二階の部屋の前まで来たところで、ハッとあることに気がついた。
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