堅物社長にグイグイ迫られてます


シトラスの香りが漂う車内にはしっとりとした洋楽が流れている。英語ができない私には男性歌手が歌う歌詞を少しも理解できないけれど、切ないメロディーが心に染みる。

御子柴さんの運転する車は昼間の都内を走り抜けていく。

助手席の窓から流れる景色を眺めながら私はふと俊君との七年間を思い出していた。

もう俊君と会うことはないのかもしれない。そう思ったら途端に切ない気持ちに襲われる。

思わずスカートのポケットに入れていたスマホを取り出し、画面をスワイプさせれば俊君とのツーショットの待受けが出てきた。

この写真を撮ったのはたしかまだ大学生の付き合い初めの頃。二人とも楽しそうに笑っていて待ち受けにするほど私のお気に入りだ。

でもこれももう消さないといけない。浮気をした彼氏を待ち受けにしているなんて未練がましいから。いや、正直なところ未練はかなりあるんだけど。

結局、待受けを消すことはできなくて、私はスマホをそっとスカートのポケットヘと戻した。
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