異世界平和はどうやら私の体重がカギのようです~転生王女のゆるゆる減量計画!~
スロウは長い間を置いて、ゆっくりと顔を上げた。その顔に、涙はもうなかった。
「騎士団長、この御恩は一生涯忘れません。この後は騎士道に則り、精進を重ねます。それでは自分、これで失礼いたします」
真っ直ぐに俺を見つめて、スロウがゆっくりと語る。不思議なことにその姿は、一回りも二回りも頼もしく感じられた。
スロウは最後に俺に一礼を残し、扉へと踏み出した。
……これで、ヴァーウンド侯爵が王妃様の実家の利権を得んともくろんでいた証拠が得られた。
あとはこの証拠をもとにヴァーウンド侯爵が息子のリィにした指示の立証をすればいい。奴のマリーナへの急接近が、自らの意思によるものとはとても思えない。なにかしら、ヴァーウンド侯爵から、マリーナの減量妨害の指示があって、奴は動いたのだ。奴の部屋を捜索してしまえば、その証拠となるなにかが必ず出る。
俺もスロウの後を追うように扉に向かう。そうすれば、ふと、前を行くスロウの背中が、騎士らの中にあって一際逞しく引き締まっていることに気づく。そのしなやかな筋肉の付き方を見れば、スロウが規定の訓練以外にも、日々たゆまぬ努力で鍛え上げているのは瞭然だった。