異世界平和はどうやら私の体重がカギのようです~転生王女のゆるゆる減量計画!~


 俺は祖国を捨てた十六歳のあの日、出会ってしまった。
 祖国より、もっともっと得がたい、俺だけの唯一無二を見つけてしまったから——。
 まん丸の太陽みたいな笑顔と、差し出されたふくふくとした手の優しさと温かさは、今も俺の胸に鮮やかな記憶として残っている。
 そうして、小さな子ども特有の温かな手のひらに握られて、糖衣が溶けかけた平たい小粒の菓子……。
 あの時に味わった菓子の味、そして口に含んだ瞬間に全身を駆け抜けた稲妻のような歓喜、それらは十年の年月を経てもなお、まるで昨日のことのように覚えている。
 ちなみに菓子と共にもらったボンボニエールは今も厳重に保管している。それはまさに、俺の宝に違いなかった。
 けれどボンボニエールよりもなによりも、最も尊い宝は……。
「マリーナ……」
 見上げた夕暮れの空に、かつて目を奪われたふくふくとした笑みがよみがえった。
 プローテイン公国王子として生を受けた俺には、十年前の政変で国を追われた過去がある。俺は叔父上の差し向けた追手から逃れ、身ひとつでテンプーラ王国に亡命した。
 ほうほうの体でテンプーラ王国にたどり着き、安堵と疲労で倒れ込んだ俺に、近づこうとする者はいなかった。


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