墜落的トキシック
「ごめんね」ともう一度繰り返したハルは身につけていたネクタイを器用な手つきでしゅるりと抜いた。あっけなくほどけたそれを、ハルはこっちに差し出して。
「はい、元どおり」
私はそれを受け取ると同時に、ハルのネクタイを彼に返した。
早速ハルは自分自身のネクタイを手際良く身につける。
そんな彼にならって、私も返してもらったネクタイを首に回した。
こうして、ここに入れて、こう……。
ネクタイを結ぶのって結構難しい。
さすがにこの制服も二年目だから、慣れてはきたものの。
ぎこちなくネクタイを結ぶ私の手つきを、ハルが黙って見守っているのを気配で感じる。
結び終えて、仕上げに形を整えて。
よし完成、とぱっと手を離した、と同時に。
「花乃」
「うん?」
名前を呼ばれてハルを見れば、彼はまだ私の胸元のネクタイをじっと見つめていた。
「ネクタイ入れ替わったの、さ」
「……?」
「わざとだよ」
え……?
息を呑んだ。
わざと、って。
故意にネクタイを入れ替えたってこと?
でも、何のために。ネクタイを入れ替えたってどうってことないでしょ。
現に、どうってことなかったもん。
言われていることが、よくわからない。
戸惑ったままフリーズした私を見て、ハルはふっと口角を緩めた。
そして、私の額を指先で、とん、と小突く。
「……って言ったらどうする?」
そう付け足して、悪戯っぽく笑った。
「冗談、ってこと?」
「そう、冗談」
悪びれずくすくすと木漏れ日みたいに笑うハル。つられて私もふふ、と笑みを零した。
「ハルの冗談は、わかりにくいよ」
笑い声の合間に挟んだ私の言葉に、ハルはちょっと困ったように見えて。でも、次の瞬間には「そうかな」と楽しげに呟いたんだ。