墜落的トキシック
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「え〜?花乃だけずるくな〜い?」



恨めしそうに声を上げたのは、毎度恒例の麻美だ。



期末テストがちょうど一週間後に迫った今日。



放課後『帰らないの?』と聞いてきた麻美に、これから侑吏くんに勉強を教えてもらうことになっているのだと告げると、このありさまである。


麻美の言い分によると『学年トップの授業をタダで!?しかもオプション眼福付き!』らしい。……タダほど怖いものはない、と私は思うんだけど。



「ねえ、私も参加させてよう、せっかくなんだから〜。ねっ?」



あざとく首を傾げた麻美。
わざとらしいその仕草は私を茶化すためだと、そんなことはわかっていたのに。




「それはだめっ!」

「え、」




とっさに口が動いて、そのことに気づいたのは麻美の驚いた声が聞こえてから。
素で驚いている様子の麻美に、はっとする。



そんな私を一瞥して、
麻美は見開いた目を、すう、と細めた。


口元に意味深なカーブを浮かべている。




「駄目なんだ?ふう〜ん?」




によによ、という効果音がぴったり。
そんな含み笑いにすぐ居心地が悪くなって。




「そーゆー意味じゃないっ!〜〜っ、ていうか麻美には家庭教師の先生がいるじゃん!」



中間テストのときに、たしかそんなことを言っていたはず。
家庭教師に来てもらっているんだと。


苦しまぎれに思い出したことを口にしながら、『だめ』なんて、どうして。


とっさに口から飛び出した言葉が、自分でも信じられない。




「そーでしたっ、カテキョの時間もうすぐだから帰ろっと!」




「じゃあね!」なんて軽快なステップで教室を後にした麻美だったけれど、その口元にまだ怪しげに笑みを浮かべていたこと、私は見のがさなかった。




たぶん、面白がっているだけだろうけど。

それでも認めたくないものは認めたくないわけで、ひとりうなっていると。




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