墜落的トキシック
侑吏くんは反対側の席に座って、ぱらぱらと教科書のページをめくりながら。
「で、具体的にどのあたり」
「え?」
「どこがわからないかって聞いてんの」
ああ、勉強の、話。
着席と同時にどうやら勉強会は幕を開けていたらしく、案外真面目なんだと感心した。
そして、侑吏くんの問いに答えるべく、んん、と頭をひねる。
「……どこがわからないかが、わからない」
しばし考えた末におずおずとそう答えた私に。
「は?まじかよ」
「だ、だって!本当にそうなんだもん!」
言ってしまえば、全部わからない。
ちんぷんかんぷんだから、どこから手をつけていいかわからない状態なのだ。
「致命的に馬鹿じゃん」
はっ、と小馬鹿にしながら笑った侑吏くんを軽くにらむ。
……馬鹿じゃないし。苦手なだけだもん。多分。
もちろんそんなことで侑吏くんにダメージを与えられるはずもなく、これはただの気休めだ。現に、彼は気にする様子さえなく、教科書にざっと目を通している。
「とりあえず、現代文から片付けるか」
予想していたよりもちゃんと、先生をしてくれるらしい。
真面目な顔でノートを開いた侑吏くんが珍しくて、おかしくて。
「はーい先生っ」
頬を緩めながら、先生と呼んだ私の頭を、侑吏くんは「ふざけんなよ」ってノートで小突いた。