墜落的トキシック
「つーか暑いんだよこの教室」
「暑いって言ったら余計に暑くなるんだよ」
「あ?事実だろうが」
さっきから、シャツの下から腕をつっこんでぱたぱたと扇いでいる侑吏くん。
男の子はいいよね、大胆なことできるから。
そう思いつつ、私は下敷きで風を作る。
侑吏くんの言う通り、暑い。
放課後、もう日は沈みかけているというのに、溶けそうな暑さだ。
じんわりと汗が滲んで、あまり心地いいものではなくて。でも。
「だってもう夏だもん。仕方ないよ」
扇風機はフル稼働、クーラーは職員室で管理されているから放課後はほとんど機能しない。
これが今の限界だ。
「夏とかうぜー」
本気で鬱陶しそうな顔をする侑吏くん。
たしかに、侑吏くんは夏が嫌いそうだなと思う。
夏、夏かあ。
季節に好きとか嫌いとか、あんまり感じたことはない。
だから訪れる季節には何の感情も湧いてこないけれど。
「……もうすぐ夏祭り、か」
この辺りでは毎年大きな夏祭りが開催される。
ちょうど、期末テストが終わったすぐあと。
夏と聞いて真っ先に思い出すイベントはこれだ。
「女は祭りとか好きだよな」
「うん、毎年行ってたよ」
好きかと聞かれると、そうでもないかもしれない。
だけど、特別なイベントだった。