墜落的トキシック
「行くなよ、仁科のとこなんて」
息を呑む。
その声は何。
その顔は、何。
見たことない。
知らない、そんな侑吏くん。
頭の中がさまざまな疑問で埋めつくされて。
「なん─────」
なんで、と尋ねようとした私の台詞は声になる前にかき消された。
「おー、佐和と久住!いいところに現れた!」
かき消したのは、我らが担任、ニッセンの無駄に大きい声だ。
厳密には現れたのは私たちではなく、ニッセンの方だけど、と心の中で突っ込みつつ。
げ、嫌な予感がする。
私と侑吏くん、二人揃って顔を曇らせた。
ニッセンが持ち込むのはほとんどが厄介事だということを、もう重々身をもって体感してきている。
そして、今回も例外ではなく。
「このアンケートの集計をしてくれないか?俺、これから職員会議でさ」
「……もし断ったら?」
「成績減点だ」
さもあたりまえ、とドヤ顔のニッセン。
職権濫用でしょ、と反論したい衝動に駆られる。だけど。
「やればいいんでしょ」
今回は大人しく引き受けることにする。
私一人じゃなく、侑吏くんもいるんだし。
それに、どうせ断ってもその後が面倒くさいのだから。
私の返事に、ニッセンは上機嫌でクラスの名簿と回収済みのアンケート用紙の束を手渡してきた。渡す……というか、押しつけだ。
教室に引き返し、侑吏くんとアンケートの集計をして。
それが終わる頃にはもうすっかり日は暮れていた。