墜落的トキシック


「その前は……えと、侑吏くんと」



その先は続かなかった。


ダンッ、と衝撃音。
突如鳴り響いた大きな音に、反射的に目をつむる。



「……佐和、ね」



ハルの低いトーンの呟きが鼓膜をかすめて、まぶたを上げる、と。


背中には壁、目の前にはハル。


そしてそんな私を囲うように、ハルの腕はまっすぐ壁に伸びていた。
さっきの音はハルが壁に手をついた音だったのだろうか。



「ハル。……やっぱり怒ってる、よね?」



不安に駆られて、表情をうかがえば。
ハルは苦しげに顔を歪めて。



「怒ってはないよ。……けど」

「けど?」

「……」




首を傾げて続く言葉を待つ。
ハルは、一度口をつぐんで。

そして、また開く。



「……怒りなんかじゃない。もっとどろどろで薄汚くて醜い」

「……?」

「嫉妬よりもっとグロくてえげつなくて底のない感情を……たとえば」

「……」

「たとえば、あいつにそういう感情を抱いたっつったら、何か変わる?」




息が詰まる。
だって泣きそうだからだ。


私じゃない、ハルが、だ。
瞳の奥のひかりも、声も、細かく震えている。




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