墜落的トキシック


喜んでほしい、か。


そういえば、ハルと付き合っていたときはいつも。
何をするにも、ハルに嫌われたくない、が先行していた気がする。


好いてほしい、喜んでほしい、だけどその根底にはいつも嫌われたくない、離れないでほしい、という思いがあった。


ハルの姿を思い浮かべて、それが消えると。


今度は頭の中にぼやっと侑吏くんの姿がかすめる。
侑吏くんは……侑吏くんに対して、は。




「ていうか、そこまで彼氏のこと考えるなんて熱々じゃん。羨ましいね〜」




ひゅう、と軽く口笛の音。
そんな冷やかしを受けて、紗良ちゃんはもうっ、と真っ赤になって布団をかぶってしまった。


布団の中からもごもごと聞こえてくる紗良ちゃんの声。




「だって、無意識に考えちゃうんだよ……っ」

「わかるけどね。恋をしてると、その人のことばっかりずっと考えちゃうよね」




ずっと考えちゃう……それって。
それって。


喉まで出かかった答え。
ほわっとまぶたの裏に浮かぶその影は────。




「あれ、花乃ちゃん、もう眠たいの? ぼーっとしてるね」

「いやっ、まだ大丈夫!」



こつん、と小突かれて慌てて意識を引き戻した。




それから数時間後。しゃべり疲れて眠る頃には、かすめた答えのことなんてすっかり忘れてしまっていた。



だけど、そのうち気づきたくなくても、気づいてしまうだろう。

認めたくなくても認めざるをえなくなってしまうだろう。




────バスの中で見た夢も、きっと今日これから見る夢も。
そこに登場するのは、たぶん……。


いや、たぶんじゃない。

確実に、きみだってこと。





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