スパークリング・ハニー
「俺は、ハッチ先生に用があって、ちょっと」
息をのむ。
震えるな、声。
「そ、っか。忙しいんだね。こんな時間まで……」
「まあね、ちょっと私的な話もあるし」
そっか、ってまたありきたりの相槌を打つ。
なんで、私が、頭まっしろになるんだろう。
口を出す権利なんてない、引き留める資格なんてない。だってこれは篠宮くん自身が決めることなのだ。篠宮くんがいいと決めたのなら、それで────。
ほんとに、いいの?
言えない、言わない気持ちばかりが喉の奥にたまっていく。
「瑞沢、外出るなら、気をつけてね」
「……うん」
「じゃあ、俺行かないと」
こくり、頷く。
篠宮くんが背中を向けて、行ってしまう。
さっき見た、あの退部届を、これからハッチ先生に渡しに行くのだろう。
この合宿が終われば、篠宮くんは、ほんとうに、やめてしまう。
それが、篠宮くんの決断なら、私は。
私は────。
「っ、待って」
「瑞沢……っ?」
篠宮くん、すごく、驚いている。
そりゃそうだ、後ろからいきなり走ってきて、篠宮くんのシャツの裾を、思いきり引っ張ったんだから。
掴んだところが、よれて、シワになっている。