スパークリング・ハニー



「瑞沢、どうしたの」




どうもしないよ。


ただ。



……ただ、どうしたら篠宮くんのこと、引き止められるかなって、そんなことばっかり考えてしまうんだよ。




「あの、ね」

「うん……?」


「あの、思い出したんだけど、ハッチ先生このあと、他の先生と電話しなくちゃいけない用事があるって言ってて、その、けっこう時間がかかるって」



私、なんてことしてるんだろう。


誰に頼まれてもいないのに、私、独りよがりなことをしている。



ごめんね、篠宮くん。




「だから、今ハッチ先生のところに行くのは、ちょっと邪魔になっちゃうかもしれない……から」




もごもごと話して、俯いた。

篠宮くんが何て言うか、怖くて、ぎゅっと目を瞑る。

見透かされてしまう、だろうか。




「そっか、ありがと。それならまた今度にするわ」




急ぎの用ってわけじゃないし、って。


柔らかい笑顔が返ってきて、なにも考えられないうちに「じゃあ俺、部屋戻るな」って篠宮くんがそう告げて、軽く手を振って去っていく。




「……っ」




その後ろ姿を見送って、ほっとした。


ひどくほっとしてしまって、その直後、猛烈な後悔に胸がきしむ。




< 230 / 299 >

この作品をシェア

pagetop