氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
それは明らかに手合わせではなかった。
殺気を撒き散らして周囲に渦が巻き、打ち合わさった刀ががちがちと音を立てながら猫の喧嘩のように唇が触れ合いそうなほどの距離で睨み合っている朔と氷雨に何が起きたのか朧は全く理解できていなかった。
「朔兄様!やめて下さい!」
氷雨からこんなことは仕掛けたりしない。
特に朔の殺気が凄まじく、普段温厚ではあるが一度切れると手が付けられなくなることがある。
その抑止力が氷雨なのに――何故こうなったのか?
「普段前線に出ない割にはなかなかやるじゃないか」
「あのなあ、も一回言うけど弟子は師匠には一生勝てねえの。いい加減駄々こねると痛い目に遭わすぞ」
氷雨の真っ青な目が、きん、と冷えた真っ白な炎を吹いた。
朔はそれをきれいだと思いながら瞬時に飛び退ったが――刀を持つ右手がぱきぱきと音を立てて凍り付いた。
両利きではないが普段不測の事態に常に備えている朔は、左手に持ち替えて氷雨の首目掛けて恐ろしい速さで刀を振り下ろした。
「その太刀筋から所作に至るまで、全て俺が仕込んだんだ。多少主さまが色々変えたとしても原型は変わらない。これも何度も言うけど、妹さんは大切にするって言っただ、ろ!」
振り下ろされた刀を雪月花でいとも簡単に弾き返すと、儚い音を立てながらも強烈な振動が朔の方だけに伝わって左手が痺れた。
刀が地面に落下すると、氷雨は雪月花を消して駆け寄って来た朧が顔面蒼白なのを見てはにかんだ。
「や、俺は大丈夫。主さまの右手をぬるま湯でゆっくり温めてやってくれ」
「ふん、まだお前に完全勝利するのは無理、ということか」
朧が湯を沸かすため屋敷の中に駆け込むのを見た後、朔は肩を竦めて恍惚とするような笑みを浮かべた。
「お前が鈍ってなくて良かった。これで思う存分こき使える」
「へっ?あの…なんの話?」
「なんでもない」
「なんでもなくねえだろ!教えろこら!」
ぺろっと舌を出した朔にがみがみ言い続けたが、朔は何も語らず、終いには朧にも怒られて肩身の狭い思いをしながらも、ずっと笑っていた。
殺気を撒き散らして周囲に渦が巻き、打ち合わさった刀ががちがちと音を立てながら猫の喧嘩のように唇が触れ合いそうなほどの距離で睨み合っている朔と氷雨に何が起きたのか朧は全く理解できていなかった。
「朔兄様!やめて下さい!」
氷雨からこんなことは仕掛けたりしない。
特に朔の殺気が凄まじく、普段温厚ではあるが一度切れると手が付けられなくなることがある。
その抑止力が氷雨なのに――何故こうなったのか?
「普段前線に出ない割にはなかなかやるじゃないか」
「あのなあ、も一回言うけど弟子は師匠には一生勝てねえの。いい加減駄々こねると痛い目に遭わすぞ」
氷雨の真っ青な目が、きん、と冷えた真っ白な炎を吹いた。
朔はそれをきれいだと思いながら瞬時に飛び退ったが――刀を持つ右手がぱきぱきと音を立てて凍り付いた。
両利きではないが普段不測の事態に常に備えている朔は、左手に持ち替えて氷雨の首目掛けて恐ろしい速さで刀を振り下ろした。
「その太刀筋から所作に至るまで、全て俺が仕込んだんだ。多少主さまが色々変えたとしても原型は変わらない。これも何度も言うけど、妹さんは大切にするって言っただ、ろ!」
振り下ろされた刀を雪月花でいとも簡単に弾き返すと、儚い音を立てながらも強烈な振動が朔の方だけに伝わって左手が痺れた。
刀が地面に落下すると、氷雨は雪月花を消して駆け寄って来た朧が顔面蒼白なのを見てはにかんだ。
「や、俺は大丈夫。主さまの右手をぬるま湯でゆっくり温めてやってくれ」
「ふん、まだお前に完全勝利するのは無理、ということか」
朧が湯を沸かすため屋敷の中に駆け込むのを見た後、朔は肩を竦めて恍惚とするような笑みを浮かべた。
「お前が鈍ってなくて良かった。これで思う存分こき使える」
「へっ?あの…なんの話?」
「なんでもない」
「なんでもなくねえだろ!教えろこら!」
ぺろっと舌を出した朔にがみがみ言い続けたが、朔は何も語らず、終いには朧にも怒られて肩身の狭い思いをしながらも、ずっと笑っていた。