氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朧は知っている。

朔が何故時折氷雨を挑発したり困らせたりするのか、その理由を。


「朔!兄!様!」


「うっ」


百鬼夜行から帰って来て自室で束の間の浅い睡眠を取っていた朔に思い切り助走をつけて馬乗りになった朧は、目を擦ってぼんやりしている朔の胸をぽかすか叩いた。


「またお師匠様を困らせましたね?さっきも解せない…って呟いてましたよ」


「だってあいつからかうと面白いでしょ」


「もおっ。朔兄様はすぐそうやって気に入ってる方を困らせるんですからっ。お師匠様はそういうの疎いから気付いてませんけど」


はははと笑った朔は、布団をぺろんと捲ってぽんぽん叩くと、朧を招き入れて欠伸をした。


「雪男は俺が指針にしてる男だから、いつまでもここの守をさせるつもりはないんだ。だからああして技や身体が鈍ってないか確かめてるだけだよ」


兄弟間では砕けた口調になる朔にすり寄った朧は、頬を膨らませてまた朔の細いけれどたくましい胸板を叩いた。


「嫌われてるのかな…って呟いてましたよ?お師匠様落ち込むと子犬みたいになっちゃうんだから、ちゃんと誤解を解いて下さいね?」


「うん」


――朔にとって朧は末の妹で、かなり歳が離れている。

その溺愛っぷりは誰もが認めるところで、この末妹が氷雨に惚れていると知ってからその願いを叶えるべくあの手この手を使ってようやく夫婦にさせることができた。

また朔にとっての氷雨は母の息吹に惚れていた哀れな男だったが、その強さは認めているし、憧れも持っていた。

いずれは大勢居る妹の誰かを嫁がせたいと漠然と思っていたため、願ったり叶ったりなわけで…


「ほんとですよ?ぜーったいにほんとですよ?」


「はいはい」


朧の柔らかい頬をぷにぷに突いていると、庭に通じる障子の向こう側で氷雨の声が聞こえた。


「寝てるとこごめん、そっちに朧が行って……この気配は居るな?開けるぞ」


障子が開くと、朔と朧が仲良くひとつの床に寝ているのを見た氷雨、爆発。


「兄妹でも男女同衾するべからず!こっち来い!こっち来て正座しろ!」


「これ位でがみがみ言うな」


そう言いつつも縁側で正座させられて、小一時間ほど仲良く説教を受けた。
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