氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朧に助言された通り、氷雨は若干ふてくされていた。

先日いきなり喧嘩を吹っ掛けられて、しかもそれも唐突に終わり、そして何もなかったかのように朔は縁側で団子を頬張っている。

庭を掃きながらそれを見ていた氷雨は、ふんと鼻を鳴らして池の鯉に餌をばら撒いて冷静を取り戻そうとしていた。


「兄妹でいらいらさせやがって。なんなんだよ、訳分かんねえっつーの」


「氷雨、ちょっとこっちに来い」


突然真名を呼ばれてびくっとなった氷雨は、目を泳がせながら箒の柄で肩を叩きつつ朔の前に立った。


「何ですかー?」


「試したのは悪かった。お前の実力を侮っていたわけじゃないんだが、北の大討伐には朧も連れて行くし、鈍っていないか確かめただけだ」


「…他にもやり方があるだろうが。ったく…危うく嫌いになりかけたぜ」


「!」


氷雨としては冗談でそう言ったのに、朔がぽかんと口を開けて肩を落としたため、逆に驚いた氷雨が固まると――

朔は氷雨の着物の袖を掴んで上目遣いに口ごもった。


「冗談…だろう?…俺が悪かった。ごめん」


「…ははっ、小さかった時を思い出すな」


幼い頃から息吹や十六夜に、氷雨の肌に直接触れてはいけないときつく言われていたため、どこかへ出かける時は氷雨の袖を握るのが癖だった。

ついその癖が出てしまった朔がぱっと手を離して唇を尖らせると、氷雨は朔の髪をくしゃくしゃにかき混ぜて輝くような笑顔を見せた。


「冗談だっつーの。いやーいいもん見れた。坊ちゃんは寂しがり屋だなー」


「…うるさい。殺すぞ」


朔を童扱いする者は限られている。

照れ隠しに殺す宣言をされた氷雨は、ようやく機嫌を直して掃き掃除に戻り、そんなふたりのやりとりを物陰から見ていた朧、ぼそり。


「私もくしゃくしゃしてもらいたいっ」
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