氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
「朔ちゃん、来ちゃった!」


数日後十六夜と共に屋敷へ来た息吹は、息子と娘の元気な姿を見てにこにこが止まらなかった。

何せ長男と末娘――元々一子にしか恵まれない家系だったから、こうしてひとつ屋根の下で暮らしていることが嬉しくて、抱き着きに行った朧とは対照的に朔は少し離れた所で照れてはにかんでいた。

いくら大人びようが母の前では子に戻るもの――

氷雨はにやにやして朔の背中を軽く押すと、息吹の前に押し出した。


「母様」


「朔ちゃんのお留守番をするために馳せ参じましたよっ。父様としっかりお屋敷を守るから安心してね」


「よろしくお願いします」


「息吹、さっきから主さまそわそわしてたんだぜ。可愛い奴ー」


「うるさい」


わき腹に強烈な拳を見舞われて氷雨が悶絶すると、十六夜はそれをさも面白い光景だと言わんばかりに唇を吊り上げてにやりと笑った。


「いい気味だな」


むっとした氷雨と十六夜が睨み合うと、朧は眉を下げて十六夜の帯をきゅっと握って悲しげに見上げた。


「父様、お師匠様と喧嘩しないでね?」


「う…あ、ああ…」


朔と同じく末娘に滅法弱い十六夜が押し黙った所で息吹がぱんと手を叩き、にっこり。


「はい!じゃあ朧ちゃん、御台所で母様と甘味作ろっ。朔ちゃんたちはゆっくりしててね」


すると朔がぎくっとなり、ややしどろもどろになりつつ小さな声で呼び止めようとした。


「俺も手伝いを…」


「朔、お前はこっちに座れ。聞きたいことがある」


はははと乾いた笑みを浮かべた朔は仕方なく十六夜の隣に座り、避けたかった質問を早速されていた。


「…で、お前気になる娘は居ないのか」


「まあその、日々忙しいので…」


「主さまは先代と違ってそんなに女遊びしてねえからそれ以上聞いてやるなよな」


庇っているのか庇っていないのかよく分からないことを氷雨に言われた朔、またぽかり。


「庇うのならちゃんと庇え」


男三人、わいわい言いながら話に花を咲かせた。
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