氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
息吹は新婚ほやほやのふたりを見ていて幸せな気分に浸っていた。

ふたりのやりとりはとても微笑ましく、朧を見つめる氷雨の優しい眼差しに胸がときめいたほどで、それに気付いた十六夜をかなりいらいらさせていた。


「ねえ、そろそろ赤ちゃんできたんじゃない?」


「!ごほっ、ちょ、なに言ってるんだよこの前祝言挙げたばっかだぜ」


「でも朧ちゃん若いし…雪ちゃんだって赤ちゃん欲しいでしょ?」


純粋無垢な息吹の質問に氷雨はたじたじだったが、夫を立てるためじっと黙っていた朧は、氷雨の隣でもじもじしてしまった。

…本来娘を氷雨に嫁がせるなど以ての外だった十六夜は、朧の子…つまり孫は見たいけれど、父が氷雨であることに心中複雑すぎて黙る他なかった。


「…この前まで俺の妻に横恋慕していた奴が、次は俺の娘に目を付けるなど、あっていいのか?」


「その節は本当にすいませんでした!」


ぺこーっと頭を下げた氷雨の潔さに息吹と朧と朔はくすくす笑ったが――十六夜は真顔を維持。


「その話は終わったことなんだからしないでって言ったでしょ?どうしてそうやって場の空気を悪くしちゃうの?」


「…」


息吹に叱られてまただんまりを決め込んだ十六夜にさっと団子の乗った皿を献上した氷雨は、冷徹無垢でいて冷淡で冷酷なこの男が結局最後の最後に折れてくれたことを深く感謝していた。


「俺たち本当に周囲を巻き込んで大騒ぎした挙句夫婦になったけど、先代や息吹が認めてくれなかったらほんとどうなってたか…」


「大丈夫ですよお師匠様。勘当されたって私は平気だし、一緒に逃避行っていうのも素敵だなって思ってたから」


「もうっ、朧ちゃんったら」


「まあまあ父様、俺がちゃんと見てますから大丈夫です。それより朧より下の妹か弟ができたらすぐに言って下さいね」


「!ごほっ!」


今度は十六夜が茶にむせて皆がどっと笑った。

息吹に背中を撫でてもらいながらも、氷雨をじろり。


「朧を泣かせたら離縁させるからな」


「その脅し文句、主さまに毎日言われてるからもういいって」


また皆が笑い、家族の団欒は過ぎていった。
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