氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
三男の天満が住んでいる陸奥には銀と焔親子も同行することになった。

朧が氷雨から逃げ続けるきっかけとなった騒動を引き起こした焔はあれ以来すっかりしおらしくなり、氷雨に食ってかかることもなく、朧に近付くこともない。

そういう時朧は敢えて焔に近寄って話しかけることにしていた。


「私、あんまり遠出したことないから色々教えて下さいね。焔さん色んなとこ知ってるんですよね?」


「ええ…まあ…」


やや仰け反って朧から距離を取ろうとするものの、朧はしっかり焔の袖を握ってにこにこ。

それを見ていた氷雨はあっさりした性格なためもう焔に怒りは感じておらず、ぽんと肩を叩いた。


「まあほら、お前は主さまの傍に居るといい。いいとこ見せて褒めてもらえ」


「!はい」


銀の尻尾がゆらゆら揺れて嬉しさを表すと、氷雨は縁側に座って欠伸をしている朔の頭を小突いた。


「おい、そろそろ行くぞ。じゃあ息吹、こっちは任せた。だから主さまは俺に任せとけ」


「はい、雪ちゃんお願いね。行ってらっしゃい!」


朧は宙に浮く術を習得していたが心配性の朔や氷雨に猫又に乗るように言われて、その背に乗り込むとぐんぐん遠くなっていく屋敷に手を振った。


――氷雨から新婚旅行を提案されてからずっとどこがいいか考えてきたが、もしかしてこの小旅行も思い出になるのではないかとわくわくしていた。


「こら、楽しそうな顔すんな。俺たちは危ない場所に向かってるんだからな」


「えへへ…ごめんなさい」


煌めかんばかりの美貌の面子と共に、一路集落鬼陸奥へ。

わくわくが止まらない朧はずっと猫又のふかふかの耳を触ってにこにこしていた。
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