氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朧は猫又の背に乗りながら終始きょろきょろしていた。

身を乗り出したりして危なっかしい場面を何度も目にしてしまった氷雨は、銀と焔に朔の護衛を任せて朧の背後にひらりと乗り込んで腰を抱いた。


「なーにしてんだお前は」


「だって色々珍しくて。お師匠様、どこかの集落に寄ったりしないんですか?」


「行きはないけど、大討伐が早く終わったら帰りはどこかに寄ってもらえるかもな」


「早く終わったらいいですねっ」


いつも以上に笑顔が弾ける朧が体重を預けてきて頭に顎を乗せた氷雨は、朧の身体が冷えないようにしっかり羽織を着せてやって辺りを警戒した。

こうして日中移動している時はほとんど襲撃はないが、力の強い妖は日中でも活動できるため、警戒は怠らない。

ましてや今回は普段戦闘に加わらない朧が居るため、氷雨だけでなく朔や銀たちもいつも以上に集中していた。


「見えてきた」


鬼陸奥は鬼族が多く住む集落で、三男の天満は北の地を警戒するよう朔に言い渡されて以後ずっと鬼陸奥に住んでいる。

ここで好いた娘と夫婦になって束の間の短い夫婦生活を送った後、早くに妻を亡くしたという情報しか知らない朧は、天満に会えるのをとても楽しみにしていた。


「この前祝言の時に天満兄様と久々にお会いしたけど、相変わらず素敵でどきどきしちゃった。天満兄様はもうお嫁さんはお迎えしないんですか?」


「…んん、天満は…そうだな、ないだろうな。あ、そうだ、あいつが経営してた宿屋があるんだ。そこにも寄ってみようぜ」


「はいっ」


うまく話を逸らすことができてほっとした氷雨は、緩やかに下降する猫又の背で足をばたばたさせて喜ぶ朧をまた注意しながらも、はしゃぎまくっていて呆れさせた。

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