氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
天満の住む家は鬼陸奥の最奥にあるため、まずは繁華街を通って行かなくてはならない。

朔と氷雨は過去鬼陸奥に何度も来たことはあったものの、やはりその悪目立ちしすぎる美貌に鬼陸奥に入った途端から大注目されて朧がおどおどした。

またそんな朔の周りを固める銀や焔、氷雨といった種類の違う美貌が勢ぞろいで、気後れした朧は猫又の何本もある尻尾のいくつかを掴んで上目遣いにあちこち見ていた。

…朧自身は気付いていないが、朧もまた注目の的だった。

一見冷徹に見えるほどの冴え冴えした月のような冷えた美貌の持ち主だが、笑うと一気に華やかになって目が素通りできなくなる。

背も意外と高く、裾の長い緋色の羽織に艶やかな長い黒髪と真っ赤な唇が映えていて、繁華街を行く男たちのほとんどが朧に夢中になってざわついていた。


「猫ちゃん、意外と広くて迷っちゃいそう」


「僕の尻尾離しちゃ駄目にゃ。あとそこらへんの男と視線合わせちゃ駄目にゃ。みんな雪男に凍らされてしまうにゃ」


「お師匠様はそんなことしないもん」


「雪男の顔をよく見てみるにゃ。怖い怖いにゃー」


事前に朔から伏し目がちに歩くようにと言われていた朧がふと顔を上げると、前を行っていた氷雨の横顔が若干怒っているように見えて思わず猫又の尻尾を強く掴んでしまった。


「にゃ゛っ」


「あっ、猫ちゃんごめん!怒ってる…ね?」


「男たちがお嬢に色目使ってるからいらいらしてるにゃ」


雪男が嫉妬してくれる機会など滅多にない。

喜びに牙が疼いてしまった朧は、氷雨の喉仏に噛みつきたい衝動にかられながらまた伏し目がちになって歩いた。
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