氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
如月たちがもたらした報は、朔たちの目を真ん丸にさせた。


「子を身籠った…?」


「はい。泉がお祖父様の治療を日々受け、私もまた懐妊しやすいようにと様々な治療を施して頂いた結果…ようやく子を授かりました」


「でもまだ流れやすい時期だから、僕は主さまたちが戻って来るまで待とうって言ったんですけど…この通り、聞き分けはあまり良くないので」


泉が深いため息をつきながら笑ったものの――兄弟の中で一番最初に所帯を持った如月はずっと子に恵まれず、その現状を打破するきっかけとなった朧はきょとんとしている。

諸手を挙げて喜ぶわけにもいかなかったが、如月は朧の両手をしっかり握ってきつく吊り上がった目尻を下げて微笑んだ。


「お前のおかげでもある。お前が私の元へ来なければ、私は子を身籠ることができなかった」


「え…え…っ?あの、如月姉様…ご懐妊はすっごくすっごく嬉しいですけど…私はどうして如月姉様の所へ行ったのか覚えてなくて…」


「大丈夫だ、私が覚えている。とにかくお前は私たち夫婦を変えてくれた。どれだけ感謝してもしきれないほど」


朧は終始戸惑っていたが、記憶が一部ないことは理解しているし、兄姉たちがそれに関して別に思い出さなくてもいいと言ってくれているため、自身に深く問い質したことはない。


「如月、悪阻は大丈夫か?これからがつらい時期になる。無理は禁物だぞ」


「大丈夫ですよ朔兄様。私は頑丈にできていますから」


「こら如月、何かあったらどうするんだ。夫の言葉をよく聞いて奔放に動かないこと。これは僕たち兄弟の総意だからね」


「はい。朧…」


次はお前だな、と言いかけた。

無邪気に喜んでくれている朧の手を握ったまま、心の中で末妹の快癒を祈り続けた。
< 198 / 281 >

この作品をシェア

pagetop