氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
繁華街を抜けてからは猫又に乗って最奥にある天満の家の前で下りた。

中からは気配が無く、一応確認のため朔を待たせてから玄関の前に立った氷雨が戸を叩こうとすると――

その氷雨の肩を完全に気配を絶った何者かがぽんと叩いて思わず飛び上がった。


「うぉおっ!?」


「僕です。もう着いたんだね」


朔たちがくすくす笑う中、飛び上がってしまった氷雨がばつが悪そうに頭をかくと、肩を叩いた天満は透き通るような美貌にさわやかな笑みを浮かべてまたぽんぽんと叩いた。


「ちょっと農作業をしてたから外に居たんだ。この前会ったばかりだけど、元気そうで良かったよ」


「お前こそ…。こんな辺鄙な所にひとりで住んで寂しくないか?」


つい玄関の前で話し込む体になってしまうと、朧が天満の背中にむぎゅっと抱き着いて黄色い声を上げた。


「天満兄様!天満兄様!」


「やあ朧、夫婦生活はうまくいってるみたいだね。泣かされてない?僕が雪男を泣かしてあげようか?」


…この兄も末妹溺愛。

さらにばつが悪くなると、迫る天満の頭を撫でた朔が苦笑して戸を指した。


「中で話そう。お前農作業とかやってるのか?」


「そうですよ、身体が鈍っちゃいそうだから少しでも動かそうと思って。あと実家からいつまでも食料を送ってもらうのも心苦しいので」


「そんなこと気にするな」


家の中に入るときっちりした性格が出ていて見事に各部屋全て整理されていた。

きっと男ひとりで住んでいるから掃除されていないだろうと張り切っていた朧が拍子抜けして廊下に佇んでいると、天満が後ろから両肩を押して前を歩かせながら笑った。


「僕はちゃんとやってるから大丈夫だよ。祝言の時はあまり話せなかったから今日はゆっくり話せるね」


「はい!天満兄様!」


上の兄たちや下の弟妹たちにもとても慕われていた天満。

朧もこの兄が大好きで、腕に抱き着いて引っ付いて離れなくなった。

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