氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朔、輝夜、天満といった三兄弟の結束は強力で、輝夜は殆ど屋敷を空けているため朔と天満は輝夜不在時は特に絆が強かった。

朔は天満が妻子を失って以降頻繁に鬼陸奥を訪れていて、かなり歳の離れた末妹の朧はこの三男と会う機会は数度しかない。

数度しかないけれど、会うと本当によく可愛がってくれて、文のやりとりもまめにしてくれるし、氷雨に恋焦がれていた時も相談に乗ってくれた。

そんな大好きな兄と例え一日でも一緒に居れると思うとにまにまが止まらなくなって、ずっと両手で口元を覆っていた。


「朧」


「あ、お師匠様、お茶運んでもらえますか?」


台所で茶を淹れていた朧が振り返らずお願いすると――急にふわりと抱きしめられて急須を落としそうになった。

…そういえば氷雨が少し怒っていたことを思い出した朧は、氷雨のあたたかい腕を撫でて謝った。


「私…怒らせてますよね?ごめんなさい…」


「いや、お前は謝らなくていい。俺が勝手に怒ってただけだから」


「でも…」


「お前がすごくいい女なんだってことを俺が忘れてただけ。痛感したからこれからお前とどっか出かける時はべたべたするからな」


すごくいい女と褒められて嬉しくなって余韻に浸っていると――


「いちゃついてるとこごめん、朔兄が呼んでるよ」


「いちゃついてねえよ、日常茶飯事ですー」


「はいはいごちそうさま。朧、僕も手伝うよ」


穏やかな笑みを浮かべた天満は、新婚ほやほやで初々しい朧が照れている様を見て少しそれを懐かしく思いながら一緒に茶を運んだ。
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