氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
望の額に生えている角は、もう限りなく小さくなっていた。

押せば内側にめり込んでしまうのではないかと思わせるほど小さくなっていて、朧もかなり気を揉んだが原因は分からず、晴明の文の返答を待つしかなかった。


「ぐったりしてるみたいだし…本当に大丈夫でしょうか」


「鬼憑きの半妖は見たことないからよく分かんねえんだよな。とりあえず氷枕で頭を冷やしてやろう」


天敵と決めつけている氷雨に食ってかかる元気もないらしく、ただひたすら朧に手を伸ばして甘えたがる。

小さな手を握ってやると安心するようですぐ眠ってしまうと、朧はまた自身の腹を撫でていて氷雨の視線に気付いた。


「あ、痛いんじゃないです。なんとなく…なんでだろう…如月姉様に赤ちゃんができると聞いてからなんとなく…」


「痛いんじゃないなら別にいい。如月はずっと子を欲しがってたからな」


俺もだけど、と内心呟いた氷雨は、ちらちらこちらを見て何か言いたげな朧の隣に座り直して小首を傾げた。


「なんか言いたそうだけど」


「その…やっぱり好いた女には子を産んでほしいものですか?」


「へ?そりゃあ…当然だろ、惚れた女との間に血を分けた子ができるんだから、欲しいに決まってる」


「ふうん……。私はまだ所帯を持ってないのでよく分からないけど…でも好いた方にそう言われたら絶対産みたいって思うんでしょうね」


「…」


思わずふいっと視線を逸らしてしまった氷雨に瞬時に気付いた朧は、袖をくいっと引っ張って振り向かせようとした。

だが氷雨は顔を逸らしたままで、今度は回り込んでその顔を見て――固まった。


「雪男…さん…?どこか痛いんですか?痛そうな顔してる…」


「や…別になんでもない。俺主さまのとこに居るから、なんかあったら声かけろよ」


「はい…」


じゃあ、と声をかけて廊下に出た氷雨は、壁に身体を預けて深い息をついた。


「危ねえ…危うく抱きしめて‟産んでほしい”って言うとこだった…」


時々、猛烈に寂しくなる。

それだけは、避けようがなかった。
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