氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朧と望が接触すると、朧は決まって体調を崩す。

いくら少し回復したとはいえ、望を長い間抱っこしていたりすると、熱が出たりだるそうにしていて床につくことが多い。

如月と泉が訪れたことで気張った朧は、体調が悪いのを押して皆と団欒の時を過ごしていたが、兄姉たちはそれに気付いていて氷雨に目配せをしていた。


「朧ー、そろそろ寝る準備しろよー」


「でも私、もうちょっとみんなと…」


「それ主さまたちに心配かけるだけだから。無理して迷惑かけるの嫌だろ?」


「でも…如月姉様、明日も一緒に居てくれますよね?」


「ああもちろんだ。お前はゆっくり湯船に浸かった後横になりなさい。後で様子を見に行く」


明日も姉と過ごせると分かって安心した朧は、氷雨に腕を支えてもらいながら立ち上がって部屋を出ると、風呂場に向かった。


「ひとりで入れるだろ?」


「入れないって言ったら?」


「熱湯なんか浴びたら俺溶けちゃうもん。外で待ってるけどゆっくり入ってていいからな。首までちゃんと浸かれよー」


…まるで童扱い。

いらいらした朧は氷雨をねめつけて戸を勢いよく閉めて羽織や帯、着物を脱ぎ散らかしながらぶつぶつ。


「私は立派な女なんだから。いくら好いた女が居るからって全然意識されてないなんて…私とその女の何が違うって言うの?」


――何も違わないわけだが、しなくてもいい嫉妬をしつつ、言われた通り湯船に首まで浸かって様々な効能のある湯を楽しんだ後、上せそうになってふらふらしながら浴衣を着て戸を開けた。

戸を背に座っていた氷雨は火照った顔をしている朧を見上げて笑った。


「よし、じゃあ寝るか」


その言い方がまるで一緒に寝るような風に聞こえてもじもじしながら俯いた。


…惚れた女の情報を本人から聞き出してやる――

燃えていた。
< 202 / 281 >

この作品をシェア

pagetop