氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朧が寝付くまで必ず傍についていた。
壁に身体を預けて腕を組み、目を閉じて外側から悪いものが入って来れないように警戒するのはいつものこと。
朧は半妖だが夜目が利き、氷雨の端正な美貌がはっきり見えていた。
手を伸ばしたらどうなるだろうかと思い立ち、畳を何度か叩くと、氷雨が苦笑した。
「おい、早く寝ろよ」
「眠れないんです。何かお話して下さい」
「話?どんな話だよ」
「雪男さんが好いている女…雪女さんの話とか」
伏し目がちだった氷雨が顔を上げると、そんな質問をしたのが急に恥ずかしくなった朧は、早口でまくし立て始めた。
「朔兄様の百鬼たちには雪女が居ませんよね?じゃあどうやって出会ったんですか?どうやって抜け出て逢引きしてるんですか?夫婦に…なるんでしょ?」
「…なんで惚れた女が雪女だって決めつけてんの?」
「えっ?違う…んですか…?」
――追及されてどう答えようか迷っていた氷雨は、床から起き上がって正座してじっと見つめてくる朧にしっしと手を振った。
「寝ろっつってんだろ」
「寝れるわけないじゃないですか。雪女じゃないんですね?じゃあどんな女?顔は?」
「顔?あーまあ…ちょっときつい顔立ちだな。一見近寄りがたい美人だけど、性格は可愛くておっちょこちょいなとこがあって、手足や腰が異常に細くて…」
その女を思い出しているのかふっと微笑んだ氷雨に燃え上がるような嫉妬を覚えた朧は、唇を尖らせて顎を引いて氷雨を睨んだ。
「私だってよくそう言われますけど」
「ははは、お前も大概美人だもんな」
…褒めてくれた。
今度は床からのそりと這い出た。
膝をつきながらじりじりと氷雨ににじり寄った。
もう、この想いを隠すことはできない。
毎日恋をして、毎日忘れてしまう――
それを繰り返しながらも、突然その均衡は破れることになる。
壁に身体を預けて腕を組み、目を閉じて外側から悪いものが入って来れないように警戒するのはいつものこと。
朧は半妖だが夜目が利き、氷雨の端正な美貌がはっきり見えていた。
手を伸ばしたらどうなるだろうかと思い立ち、畳を何度か叩くと、氷雨が苦笑した。
「おい、早く寝ろよ」
「眠れないんです。何かお話して下さい」
「話?どんな話だよ」
「雪男さんが好いている女…雪女さんの話とか」
伏し目がちだった氷雨が顔を上げると、そんな質問をしたのが急に恥ずかしくなった朧は、早口でまくし立て始めた。
「朔兄様の百鬼たちには雪女が居ませんよね?じゃあどうやって出会ったんですか?どうやって抜け出て逢引きしてるんですか?夫婦に…なるんでしょ?」
「…なんで惚れた女が雪女だって決めつけてんの?」
「えっ?違う…んですか…?」
――追及されてどう答えようか迷っていた氷雨は、床から起き上がって正座してじっと見つめてくる朧にしっしと手を振った。
「寝ろっつってんだろ」
「寝れるわけないじゃないですか。雪女じゃないんですね?じゃあどんな女?顔は?」
「顔?あーまあ…ちょっときつい顔立ちだな。一見近寄りがたい美人だけど、性格は可愛くておっちょこちょいなとこがあって、手足や腰が異常に細くて…」
その女を思い出しているのかふっと微笑んだ氷雨に燃え上がるような嫉妬を覚えた朧は、唇を尖らせて顎を引いて氷雨を睨んだ。
「私だってよくそう言われますけど」
「ははは、お前も大概美人だもんな」
…褒めてくれた。
今度は床からのそりと這い出た。
膝をつきながらじりじりと氷雨ににじり寄った。
もう、この想いを隠すことはできない。
毎日恋をして、毎日忘れてしまう――
それを繰り返しながらも、突然その均衡は破れることになる。