氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
氷雨のごつごつした身体の感触がじわじわ伝わってきた。

意味が分からなくて固まってしまった朧をべたべた触りまくっていた氷雨は、身体を離して目を見開いている朧の額を突いた。


「まだ理解できてねえのか?」


「え…だって…その…私…なんですか?」


「うん、ちょっと前からお前は俺のものでした」


低い声で耳元で囁かれてそれが冗談ではないと分かると、恐る恐る氷雨の首に触れて体温を確認した。

…温かくて、指先から鼓動が伝わる。

好いた男に‟俺のものだった”と言われ、さらに確認しなくてはと顔を上げると元々至近距離にあった氷雨の唇に触れそうになってまた硬直。


「あ、あの…それって私はもうその…雪男さんのものということは…その…身体も…?」


「うん、黒子の数も知ってるけど言おうか?」


「!い、いえ、いいです!」


――氷雨の存在だけが記憶からすっぽり無くなっている理由は未だに分からないが、その理由はきっと氷雨が知っている――

それよりも、この男が自分のもの――

氷雨の唇から目が離せなくなってじいっと見つめていると、ふっと笑われた。


「そんなとろとろした目で見るなよな。俺だってお前に全部ぶちまけたかったけど、それだとお前を混乱させるかなって」


「教えてもらえますか…?どうして私があなたのことを忘れているのか…」


目が合うと、顔が斜めに近付いて来て唇が重なった。

やわらかな感触に気持ちがふわふわしていると、舌が絡まってきて思わず腰が引けたが、ぐっと腰を抱かれて引き寄せられた。


「こんな、こと…されてたんですね…」


「こんなことって…まだまだすごいことしたいんですけど…まあいっか、添い寝で許してやるよ」


膝に乗ったままくるりと体勢を変えて今度は朧が壁に背中を預けた。

顔の隣で氷雨が手をつき、また唇が重なった。

もっとこの男を感じたい――

必死になってしがみつき、愛を感じた。
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