氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
夜通し話しているうちに、朧がうとうとし始めた。

――このまま寝てしまい、目が覚めた時にはまた記憶が消えている――

何度もそう繰り返してきたため、それを覚悟していた氷雨は、朧が寝てしまうとそっと床から出て居間へ向かった。

さすが鬼頭家の子たち。

飲み込みが早く、最初は話の内容に混乱していたものの、嘘ではないと信じてくれると熱心に聞き入ってくれた。

だがそれも…また振り出しに戻る。

今までの経験からして、ずっとそうだったから。


「遅かったね。朧はもう寝た?」


「ああ、ちょっと長話しちまった。そろそろお前らも寝とけよ、主さまの出迎えは俺がや…」


氷雨はそこで言葉を切らした。

何故ならば――先程寝たはずの朧が居間の襖の引き戸に手をかけて立っていたからだ。


「ちょっとうとうとしてたら雪……氷雨さんが居なくなってたから」


「え?お前、記憶が…」


恥じらいながら真名を呼んでくれた朧を食い入るように見つめた氷雨は、いつものように記憶が消えていないことに腰を浮かして驚きを隠せなかった。


「記憶?あ…そういえば私…氷雨さんが話してくれたこと、覚えてます」


「流転が途切れたね。何がきっかけになったんだろう?」


氷雨の隣にぴっとりくっついて座った朧は、首を振って何が原因なのか分からないと示すと、天満は部屋の片隅に置いていた揺り籠を見に行って腕を組んで見下ろした。


「もう限りなく角が小さくなってる。この子の力が弱まって朧に干渉できなくなってるってことかな」


「分かんねえけど、でも朗報だ。主さまに話さないと」


朧と顔を見合わせた。

転機が訪れた。
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