氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
指折り数えて考えていた。

…最近の記憶はあやふやな部分が多いのだが――それでも自分の身体のことは分かっていた。


「氷雨さんは私のことよく見てくれてましたよね?」


「え?ああそりゃもちろん…」


「私って、月のものはいつが最後だったか覚えてますか?」


――そう問われた氷雨は、朧は月のものが重たくていつも腹が痛いと苦しんでいたが…晴明に教えてもらった煎じ薬を作っていないことに気付いて軽く目を見開いた。


「ひと月…いや、ふた月位ない…よな。如月の家に行った時すでになくて……え…」


氷雨と朧が顔を見合わせて動揺する中、即行動が信条の朔は、無言のまま紙を手になにやら書いて折りたたみ、鳥の形にして縁側に出ると、空に飛ばした。


「お祖父様に来て頂く。最近の朧は体調が悪かったから、そのせいで月のものが止まっているのかもしれない」


「俺に…俺たちに…子が…?」


「…おい、俺の話を聞け」


「あつつつつっ!熱い!」


朔に思い切り頬を引っ張られた氷雨が叫ぶと、確かにそうだな、と冷静になって思った。

かつて朧は自分ではない子を身籠ったのではと思い悩み、独りで出奔した経緯がある。


「そ、そうだよな、体調悪かったんだもんな。よし朧、晴明が来るまでまだ間があるから寝とけ。いや、寝てくれ」


「で、でも…私…赤ちゃんが…?」


「お祖父様に診て頂いたらすぐ分かるから、俺からもお願いするよ。雪男を傍につけるから寝ていて」


朔にもお願いされてようようと頷いた朧は、氷雨にさっと抱えられて居間から連れ出された。


「赤ちゃん…」


「いーや、お前勘違いして大騒動になったことあるから違う可能性が高い。どっちにしろ安静にしてくれよ」


「は、はい」


氷雨の胸元をきゅっと握り締めて不安と動揺を共有した。
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