氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
幽玄町から鬼陸奥はかなりの距離があり、朔たちが着いた時はもう昼をとうに過ぎていた。

大討伐とはつまり手討ちであり、闇に潜んで人を襲い、食ってしまう妖たちを一網打尽にすることで、大抵彼らは結託して行動している。

年に数度、こうして大討伐を行って反乱分子を一掃するのだが――この大討伐という日…朔が荒れる。

普段穏やかなくせに、一旦闘志に火が付くと手がつけられなくなるほど猪突猛進に突っ込んでくため、氷雨は大討伐の日に必ず駆り出されて朔を諫める役目を担っている。


「ああもう日暮れが来るね。百鬼たちが集まって来る前に朔兄、お風呂でも入りませんか?ここのお湯好きでしょ?」


「いいな、じゃあそうするか」


「駄目です!今から大切なお役目があるんですから帰って来てからにして下さい」


「じゃあ軽く酒を一杯…」


「それも駄目です!勝利の美酒は帰って来てから!」


悉く朧に止められて肩を落とした朔にくすくす笑った天満は、朧の頭を優しく撫でて顔を覗き込んだ。


「じゃあ朧は僕とお留守番だね。何して遊ぶ?なんでも付き合うよ」


朧はすくっと立ち上がると、見上げる天満にとびきりの笑顔を見せて懐から紐を取り出してささっとたすき掛けをした。


「え…まさか…」


「そのまさかです。私も大討伐のお手伝いをするんですよ。天満兄様も早く準備!」


「ちょ…ちょっと待って、朔兄…どういうこと…」


混乱する天満の両肩を朔と氷雨がぽんと叩いて、深いため息。


「覚悟しろ。朧はもしかしたら俺たちより強いかもしれない」


何せ技術は父の十六夜直伝。

朔がすでに許可を出していると分かると、天満は肩を竦めてもう随分長い間抜いていないふた振りの刀を手元に引き寄せた。


「じゃあ久々にちゃんと身体を動かそうかな」


溺愛する妹のおねだりをもちろん受け入れた天満は、朔たちと共に庭に出て集結し始めた百鬼を出迎えた。


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