氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
晴明の診察は思っていた以上に長くかかった。
廊下をうろうろしていた氷雨は部屋の中から朧のすすり泣きが聞こえた気がして足を止めて食い入るように部屋の襖を見ていた。
「なんだよ…まだ終わらないのか?」
我慢できなくなって襖を開けようと手をかけた時――中から晴明が出て来た。
晴明を食い入るように見つめていると、ふっと笑った晴明は身体をずらして氷雨を招き入れた。
「終わったよ。私は席を外すから、ふたりで話しなさい」
「ああ、分かった」
晴明が立ち去った後部屋の中に目を遣った氷雨は、朧が頭から布団を被って小さな山のようになっていて、その傍に座った。
「俺なにも訊いてないんだけど…どうだった?」
「…」
「お前ずっと体調悪かったし、一時は命も危うかったんだ。身体が弱ってるのは仕方な…」
「…てました」
「え?」
布団の中から蚊の鳴くような小さな声が聞こえた。
顔を寄せて耳を澄ましていると――その声は、確かにこう言った。
「妊娠…してました…」
「…!お、朧…それ本当に…」
顔が見たい。
朧が妊娠しているという事実はまだ実感がなく、とにかく顔が見たい――その一心で氷雨がそっと布団を剥ぐと、朧は涙に濡れた顔をくしゃりと歪ませて笑った。
「氷雨さん…私たちの赤ちゃん…お腹の中に…」
「朧…!ど、どうしたらいいんだ…俺、どうしたら…」
――氷雨は朧以上に動揺していた。
手は震え、身体も震えてきて、真っ青な目の中にゆらゆら動くものを見た朧は、手を伸ばして氷雨を床の中に招き入れた。
「喜んでくれてるんですよね…?」
「当たり前だろ、朧……記憶がないのに妊娠してるとかお前も混乱してるだろうけど…俺は嬉しい。嬉しくて…」
言葉が詰まった。
朧は氷雨を抱きしめて、その真っ青な髪を優しい手つきで撫でた。
「記憶がなくったって大丈夫…。今の私も、以前の私も、あなたを愛していることには変わりないんだから…」
――そうして、ふたりの間に愛が結晶となって形になった。
廊下をうろうろしていた氷雨は部屋の中から朧のすすり泣きが聞こえた気がして足を止めて食い入るように部屋の襖を見ていた。
「なんだよ…まだ終わらないのか?」
我慢できなくなって襖を開けようと手をかけた時――中から晴明が出て来た。
晴明を食い入るように見つめていると、ふっと笑った晴明は身体をずらして氷雨を招き入れた。
「終わったよ。私は席を外すから、ふたりで話しなさい」
「ああ、分かった」
晴明が立ち去った後部屋の中に目を遣った氷雨は、朧が頭から布団を被って小さな山のようになっていて、その傍に座った。
「俺なにも訊いてないんだけど…どうだった?」
「…」
「お前ずっと体調悪かったし、一時は命も危うかったんだ。身体が弱ってるのは仕方な…」
「…てました」
「え?」
布団の中から蚊の鳴くような小さな声が聞こえた。
顔を寄せて耳を澄ましていると――その声は、確かにこう言った。
「妊娠…してました…」
「…!お、朧…それ本当に…」
顔が見たい。
朧が妊娠しているという事実はまだ実感がなく、とにかく顔が見たい――その一心で氷雨がそっと布団を剥ぐと、朧は涙に濡れた顔をくしゃりと歪ませて笑った。
「氷雨さん…私たちの赤ちゃん…お腹の中に…」
「朧…!ど、どうしたらいいんだ…俺、どうしたら…」
――氷雨は朧以上に動揺していた。
手は震え、身体も震えてきて、真っ青な目の中にゆらゆら動くものを見た朧は、手を伸ばして氷雨を床の中に招き入れた。
「喜んでくれてるんですよね…?」
「当たり前だろ、朧……記憶がないのに妊娠してるとかお前も混乱してるだろうけど…俺は嬉しい。嬉しくて…」
言葉が詰まった。
朧は氷雨を抱きしめて、その真っ青な髪を優しい手つきで撫でた。
「記憶がなくったって大丈夫…。今の私も、以前の私も、あなたを愛していることには変わりないんだから…」
――そうして、ふたりの間に愛が結晶となって形になった。