氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朔は必ず百鬼夜行の先頭に立つ。

頭の朔を狙えば百鬼夜行はできなくなる――それは父の時代までは事実だった。

だが多くの弟や妹たちが居る中その問題はなくなり、だからこそ朔は余計にさらに前に出て囮となり、多くの敵を引き寄せた。

またその容姿――これに恐ろしいほどの吸引力がある。

半妖なれど、人と妖の最も良い素質だけを受け継ぎ、美しさと強さは比類なきものであり、そのふたつの素質を十二分に備えた朔は敵をも味方に変えることが多い。

そして…


「主さま、今夜は俺も暴れていいんだよな?」


「そのつもりで連れて来た。だが朧はどうする?」


「天満が居るだろ。本当は俺が守るべきだけど、天満がついて来るんなら話は別だ。疼くぜ」


好戦的な性格の氷雨は本来前線に出すべきだった。

だが父の十六夜は、氷雨が強いからこそ秘密の多い屋敷の守りをさせることを選択して、前線にはほとんど出さなかった。

だが朔は違う。

師であり、密かに父だったり兄のように思っている氷雨と共に戦うのがとても楽しみで嬉しくもあり、にいっと唇を吊り上げて妖しく笑った。


「俺がお前を止めなきゃいけなくなるのか?」


「馬鹿言え、ちゃんと理性は保つ。主さまこそ理性失って突っ込んでいくなよ。後始末が毎度大変なんだからさ」


「それがお前の仕事のうちのひとつだ」


はいはいと相槌を打った氷雨は、肩越しに中央に居る朧を見ると、天満と楽しげに話していて一安心して右手に雪月花を顕現させた。


「この辺で待ち受けるか。天満が今夜百鬼夜行が来ると噂を撒いたからそろそろやって来るぜ」


北はまだ風が冷たく、朔と氷雨の髪をなぶっていった。

美しい妖がふたり、百鬼夜行の先頭で火に誘われるようにわらわらと現れた蛾たちを待ち受ける。

大暴れしていいと許可が出た氷雨は、舌なめずりをして煌々と真っ青な目を光らせた。
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